
[ 武井祥平・高橋琢哉インタビュー② ]
―― 音をとおして空間を体感する
WORK with ART Project 開発ストーリー

テクノロジーを活かした表現
―― ミュージアムタワー京橋の3階オフィスラウンジでは、どの位置に座っていても音楽に優しく包まれるような感覚を抱きます。スピーカーは見当たらず、壁や空間そのものが音を発しているようでもあります。どのような仕組みなのでしょうか。
高橋琢哉(以下、高橋) まず天井のルーバーの裏に大きなスピーカーが4台あり、別々の方向に音を発しています。植栽の中には小さなスピーカーが6台あり、内壁に向かって配置されています。それぞれから流れる音を複雑に反射させることで、そこかしこから音が聞こえるという環境をつくっています。同時に、立ち位置や座席によって、音の聞こえ方が異なるといった体験も演出しています。

―― 聞こえ方だけでなく、流れている音楽そのものも変化を繰り返しているのですよね。
高橋 そうです。電子音からなる、自然のイミテーションとしての音楽はプログラムによってつねに新しく生成されていて、同じ構成を繰り返すものではありません。各スピーカーからは異なる音楽が流れていて、音同士の重なり方にも一回性があります。完全なランダムネスではなく、綿密に調整したパラーメーターのもと、自然の移ろいを表現しています。
武井祥平(以下、武井) またこれらの音楽は実際の季節や天候に応じて変化しています。インターネット上に公開されている気象情報をリアルタイムに取得するプログラムによって、例えば雨であれば水のような、晴れであれば虫の音のような要素が音楽に表れてくるようになっています。
意識が向かう先を選択できるということ
―― 自然を感じさせる営みにおいて、その裏側では、ハードウェアにおいてもソフトウェアにおいてもテクノロジーによる工夫がたくさんあるのですね。「気分の変容」というテーマで制作・演出されたエスカレーター空間においては、ピアノの音色が聞こえてきます。
武井 1階と3階をつなぐエスカレーターにおいて、そのモーター駆動音をストレスに感じているという声がありました。エスカーレーターの滞在時間としては比較的長い、一方で、わずかとも言えるこの約1分間を豊かなものにするべく、別の大きな音で覆い隠すのではないかたちで解決方法を模索しました。
高橋 ここで新たにつくった楽曲は、通常であれば15秒ほどで完結するフレーズを2分ほどの長さで構成したものです。音と音の間(ま)を意図的に長く設けることによって、エスカーレーターの動作音と音楽、それぞれに対して自由に意識のカーソルを向けることのできる、選択の余地を生み出しました。人間の聴覚はとても高度なもので、聞きたい音と聞きたくない音を識別して、聞こえ方を調整することができます。そこから、聞きたいものを選べないという状況がストレスの本質であると捉え、音に対する自由度を演出しました。
武井 ふたつの音を往復することで、ストレスだと思っていた動作音に対する認識も変わってくるように思います。エスカレーターとオフィスラウンジ、それぞれの音が混ざり合う瞬間も含めて、おおきなひとつの空間体験と位置付けています。
