
[ 中山晴奈インタビュー① ]
―― アートの解釈を促すフードデザインのアプローチ

コミュニケーションツールとしての食
―― 中山さんがフードデザイナーとしての活動を始めたのは、大学在籍中の頃であったそうですね。
中山晴奈(以下、中山) 大学で現代美術を勉強していた時から、食に興味がありました。展覧会のオープニングパーティやワークショップに食があることで場が盛り上がり、参加者の興味・関心が掻き立てられる。その様子を見て「食は優秀なコミュニケーションツール」と考えるようになって、展覧会にまつわるイベント向けにケータリングサービスを始めました。展示の意図や作品の背景を読み取り、それらを料理というかたちで提供すると、多くの人々が喜び、会話も弾む。そのような経験をもとに、展覧会に限らずさまざまな場所で、コミュニケーションの仕掛けとしての食を実践してきました。

―― アーティゾン美術館で行われた展覧会「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」に際しても、同館が入居するビルで働くビジネスパーソンを招いたフードイベントをプロデュースされました。
中山 本展のキュレーターである上田杏菜さんに案内いただきながらアボリジナル・アートに触れ、私自身もその歴史や社会的な立場について勉強し、食に“乗せる”ことができそうな要素を整理していきました。格差や差別の対象でもあったアボリジナル・アートの苦難を知って、それを食べ物としてどのように届けるかを考える難しさがある一方で、フードイベントとしてシンプルに食を楽しんでもらうことも大事な観点であると感じました。そのバランスについても、制作チームで議論を重ねました。
―― 中山さんご自身は展覧会をどのようにご覧になり、どんなインスピレーションを受けたのでしょう。

中山 厳しい歴史の中でアートを生み出すこと自体、大変なパワーが必要だったに違いありません。自分の祖先が背負ってきた過去を踏まえて、それを継承すること、「私とは何か」ということを表現する作品が多かったように思います。悲観的ではなく前向きな作品として成立させていて、アーティストとして力強く生きる姿が印象に残りました。
アボリジナル・アーティストにとって、生きることと作品をつくることは重なるものであったはずです。そして、食べることも生きることである。アートも食も、暮らしの一部として自然につながっている。そうした作品の世界観を料理として伝えるにはどうしたらいいか。アーティストが育った大地や海、風みたいなものを少しでも感じてもらうことができたら、展覧会を楽しむ助けになるのではないかと思いました。
インスパイア・フードという応答
―― どんなメニューを構成したのですか。
中山 オーストラリアの自然をテーマに、ブッシュ・タッカー※と呼ばれるアボリジナルの伝統的な食材も取り入れて、食べた瞬間に大自然を感じるような料理に落とし込みました。中には日本人が食べ慣れない味や香りもあって、非日常の味わいをとおして自然の感覚を呼び起こすような体験をしてもらえたらと。忙しいビジネスパーソンの視野をリフレッシュし、明日への活力につながればいいなと思いながらメニューを考えました。



―― 料理だけではなく、皆でテーブルを囲む場づくりも手がけています。
中山 展覧会が伝えたいことからいくつか要素をピックアップして、「この部分は食べ物に、この部分はテーブルの演出に」と、参加者の皆さんに楽しんでもらえるかたちに変換していきました。テーブルに装飾の植物をあしらうために、ネイティブフラワーと呼ばれるオーストラリア原産の草花を大田市場から仕入れて空間演出に活かしました。味覚以外でも視覚や触覚でおいしさを感じる部分が大きいので、チームでアイデアを出し合いながら環境をつくっていきました。

―― 参加者の反応はいかがでしたか。
中山 当日、私も皆さんと同じテーブルでお話をさせてもらったんです。見たことのない食材についてたくさん質問をされて、フードデザインという領域についても興味をもってくださったようです。メニューの最後に出したデザートは京都を拠点に和菓子づくりを行う御菓子丸さんとつくったもので、見た目の美しさをはじめ注目を集めました。また、テーブルの装飾に使ったレモンマートルの香りを木から摘んで嗅いでもらったら、皆さん喜ばれて。五感でいろいろ感じていただけたのではないかと思います。私自身も、食を通じたアート体験と皆さんとのコミュニケーションがとても楽しかったです。
