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[ ダムタイプインタビュー③ ]
―― ネットワークが巡る地球の新たなリアリティ

Interview
ミュージアムタワー京橋1階のエントランスに設置された《WINDOWS》。世界中のライブカメラの映像が格子状に映し出されている。

解像度が変化する地球儀

―― ミュージアムタワー京橋の1階エントランスに設置されている《WINDOWS》について、世界中のライブカメラから届く映像を作品に取り込むという発想はどのように生まれたのでしょう。

高谷史郎(以下、高谷) この地球に対して誰もが自分なりのイメージを持っているのだと思います。衛星写真のように外側から地球を捉えたようなものや、地球儀のようなものまで。それぞれのイメージが正しいか間違いかということではなく、それらとまったく異なるかたちで地球を捉えることができないのかと考えていました。

地球が丸いということや公転していることは皆が知っている。理屈では分かっているものを、現代的な技術を使って表現することはできないか。インターネット上にたくさん流れている世界中のライブカメラ映像を集めて、地理上のグリッドに並べてみることで、地球の色や形だけではないもっと大きな概念、例えば時間というものが見えてくるのではないかと思いました。

《WINDOWS》に格子状に映し出されているライブカメラの映像を穏やかな表情で見つめる高谷史郎氏。

大きなオフィスビルや会議場のロビーなどに、地球儀や地球をモチーフにしたオブジェが置いてありますよね。おそらく「もっと世界のことを考えよう」という想いを込めて設置されたのではないかと思います。この《WINDOWS》もまた、情報技術を以て世界とつながる作品、あるいは地球規模の感覚を持つための装置として、ミュージアムタワー京橋という東京の中心に建つオフィスビルに存在させることができるのではないかと構想していきました。

ライブカメラの映像というのは、それぞれに視点があり、かつ、さまざまな解像度で存在しています。膨大な映像を俯瞰するように表示すれば、抽象化された光の動きだけが見えるだろうし、ひとつひとつの映像にフォーカスすれば各地の時間の動きが見えてくるかもしれない。そのような“解像度の変化”は従来の地球儀では表現できない面白さがありそうだと思っていました。

《WINDOWS》に無数のライブカメラの映像で構成された地球儀が映し出されている。

世界を捉え直すための作品づくり

古舘 健 「世界の新しい捉え方」というコンセプトについては、ヴェネチア・ビエンナーレで発表した《2022》という作品から一貫して掲げているように思います。世界各地でフィールドレコーディングした音源の入ったレコードを地球というスケールに置き換えて、実際の緯度や経度に沿ってターンテーブルを設置して再生するなど、地理に根差した作品づくりを続けてきました。

《WINDOWS》の前に立ち、作品のコンセプトについて身振りを交えて語る古舘健氏。

―― 《WINDOWS》が映すライブカメラの映像は地域も時間も異なりますが、どのようなルールで表示させているのですか。

古舘 ライブカメラの映像は、インターネット上で公開されている映像を、ほぼリアルタイムに近いかたちで参照しています。それぞれのカメラにはIPアドレスが割り当てられていて、そこからおおよその地理的な位置情報を参照することができるのです。そのうえで《WINDOWS》を大きな世界地図に見立て、その緯度と経度に沿ってカメラを並べる。すると、アメリカやヨーロッパ、アジアなどカメラが置かれている地理上の場所と、分割して画面に表示される場所が概ね対応して見えるというわけです。

高谷 一方で、海の上にライブカメラは付けられないし、インターネット上に公開されていない映像もたくさんあります。つまり“盲点”がたくさんある。そういった意味では、この作品が表しているのはリアルな地球というわけではなく、インターネットが見ている地球であると言えます。

《WINDOWS》に世界中のライブカメラの映像が格子状に映し出されている。

古舘 それもまた、この世界に確かに存在する別のリアルであるという。

高谷 そう。リアルとはそういうものだということを話してきましたね。

古舘 《WINDOWS》が映す世界の様相に対して、鑑賞者にある種の気持ち良さを感じてもらえるような、画面分割のプログラムを組みました。技術的には、1296 ✕ 1296ピクセルのLEDパネルに対して、そのピクセル数をきれいに割り切れるパターンを洗い出します。そこから、画面を大きく分割するグループと小さく分割するグループに分けます。ライブカメラから届く映像はそれらの分割パターンを順番に行き来するように映し出されるのですが、そこでの美しい切り替わりを表現するために、ピクセルの分割数やテキスト表示の組み合わせといったパターンをたくさん試しながらディテールを調整していきました。ある程度作品が形になると、メンバー皆でその様子を1日かけて眺めてみる。どうしたら直感的に美しいと捉えてもらえるか、気持ちがいいと思えるかということを追求していきました。

Dumb Type(ダムタイプ)

ヴィジュアル・アート、建築、コンピュータプログラム、音楽、映像、ダンス、デザインなど多様な分野の複数のアーティストによって構成されるグループ。1984年に京都で結成以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続ける。美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するその活動はプロジェクトごとに作品制作に参加するメンバーが変化するなど緩やかなコラボレーションによって、現代社会におけるさまざまな問題への言及をはらむ作品を制作し、多くの作品が世界中で上演されている。第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示(2022年)他。

dumbtype.com

高谷史郎

1963年生まれ。京都市立芸術大学在学中の1984年よりダムタイプに参加し、映像や照明、グラフィックや舞台装置などさまざまな表現を手がける。1999年より個人の制作活動を開始し、光学装置を用いた映像インスタレーションやパフォーマンスを国内外で発表。

古舘 健

1981年生まれ。コンピュータプログラミング、メカトロニクスなどを用いて、インスタレーションやライブパフォーマンスを行う。2002年よりサウンドアートプロジェクト「The SINE WAVE ORCHESTRA」を主宰。2014年よりダムタイプに参加。

濱 哲史

1985年生まれ。コンピュータプログラミングを駆使してサウンドや映像を制作。大友良英、坂本龍一、池田亮司、クリスチャン・ボルタンスキーら多くのアーティストの作品制作に音、映像、プログラミングで協働。2018年よりダムタイプに参加。

文:いまむられいこ
写真:井上佐由紀
構成:長谷川智祥