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[ ダムタイプインタビュー④ ]
―― ビルそのものが世界とつながる“窓”となる

Interview
ミュージアムタワー京橋1階のエントランスに設置された《WINDOWS》の前で、左から高谷史郎氏、古舘健氏、濱哲史氏が真剣な表情で並んで立つ写真。

鑑賞者と世界をつなぐ東京の空

―― 《WINDOWS》の発表から2年目となる2025年には、ミュージアムタワー京橋の屋上に設置されたライブカメラの映像が作品に加わりました。

高谷史郎(以下、高谷) (以下、高谷)今回新たに、このビルの屋上部、地上150メートル地点に全周魚眼レンズのカメラを設置しました。毎20秒に1回、東京の空を撮影したデータが作品に届くようになっています。

《WINDOWS》を1年間運用するなかで、この作品には鑑賞者が関与したり没入する余地がまだまだあると思ったのです。新しい地球儀をつくり上げた一方で、鑑賞体験としては、いわゆる「地球儀を見る」ということとあまり変わらないのではないかと。各地のライブカメラはこの世界の誰かがそれぞれの目的で取り付けたもので、「地球上にはこんな視点もある」ということを教えてくれる存在です。しかし、それぞれの鑑賞者がこのカメラ越しに見ている映像世界に親近感を覚え、自分もその一員であることを実感できるような仕組みが必要なのではないかと思ったのです。

《WINDOWS》に地球儀のように映し出されている無数のライブカメラの映像を穏やかな表情で見つめる高谷史郎氏。

そこでふと、このビルの屋上の空に目を向け、太陽や大気がぐるぐる回って動いている様子を眺めていると、その真下にいる自分もまた世界の一部であると感じられることに気がつきました。この視点を取り入れることで、作品の見え方や受け取り方が大きく変わるだろうと直感したのです。

―― 第2弾としてアップデートされた《WINDOWS》を実際にご自身で体験されたときは、いかがでしたか。

高谷 空を見るという行為は、雲や太陽、星の動きを追うことであり、つまりは時間の流れを見つめることでもあります。今回のアップデートで面白いと感じたのは、映像を時間ごとに分解・再構成することで、1日の空の変化を手に取るように見ることができるようになった点です。今後、1年、2年というスパンで蓄積された空の映像をひとつの画面に表示すれば、同じ時刻における異なる日の空を同時に見ることができ、季節の移ろいを視覚化できるようになるわけです。

《WINDOWS》に東京の空のライブカメラの映像が映し出されている。

時間が凝縮された空のアーカイブ

―― 具体的にはどのように画面が構成されているのでしょうか。

古舘 健 屋上に設置したカメラから届く映像は、大きくふたつのセクションに分けて作品に投影しています。ひとつは、直近1日分の映像を投影するセクションで、もうひとつは作品が設置されてから現在までのすべての映像を一覧で表示するセクションです。

今回のアップデートから8日が経過した今なら、8日分の空の映像が並んで表示されます。雨が降っていたり、曇りであったりと、日ごとに異なる空の表情を一覧できるのです。蓄積された日数と画面の分割数に応じて、同じ東京の空のなかに、さまざまな違いや変化が浮かび上がってくる。それが作品の面白さだと思っています。

《WINDOWS》に作品が設置されてから現在までのすべての東京の空の映像が格子状に映し出されている。
《WINDOWS》に直近一日分の東京の空のライブカメラの映像が格子状に映し出されている。

―― サウンドについてはいかがでしょう。

濱 哲史 2024年に第1弾をつくった後から「WINDOW(窓)」というキーワードについて考え続けてきました。私もこのビルで働いている人と同じく、社会における自分とプライベートの自分を切り替えて働いています。オフィスビルにはそれらを切り替える、世界の内側と外側を隔てる機能がありますよね。ビルの内側では、働く人は会社と同化して、会社の使命を自分の使命のように引き受けるといったような。

一方で、「窓」はより個人的なもので、それが開けば会社からの責任から解放されるひと時が訪れることがある。会社や社会の中での自分とは何ら関係なく流れる外の風を引き入れ、心をリセットする瞬間に、今までと違う視野を得て世界を夢見ることができるのではないか。そのように、このミュージアムタワー京橋の窓を開くことができたらとイメージしていました。

アイデアを発展させていく過程で、ビル周辺の環境音を作品に取り入れることにしました。今回、屋上にカメラを設置したことで、このビルに“目”が生まれ、新たなマイクが“耳”のような役割を担うというようなイメージです。

ロビーで実際に流れている環境音は現在の音ではなく、映像の中に登場する風景と同時刻に記録されたものが再生されています。このシステムを1年間起動し続ければ、その期間のうちのいつかの音が再現されることになります。

ロビーの窓越しに外を眺めながら音を聞いていると、今この場所で鳴っている音のように感じることがあります。しかし実際には、目の前の風景と音にはズレがある。目の前に広がっている場所と過去の音を合わせて聞いていると、今この瞬間、この場所で鳴っているはずの音はどこかへ消えていってしまっているのかと意識が不安定になる。そうしたズレによって、窓の外の世界の現実感が曖昧になって揺らいでいく。その効果をとても面白く感じています。場所や音が自由になる感覚があるのです。

《WINDOWS》の前に立ち、作品のコンセプトについて身振りを交えて語る濱哲史氏と、穏やかな表情で見つめる古舘健氏。

環境音と共に作品空間に流れる音については、第1弾の内容をリセットし、一から制作しました。他のメンバーが設置作業に入ってくる4、5日前から、1階の映像の前に座って、窓の外に移ろう光を眺めながら、「どんな音がふさわしいか」とオリジナルのシンセサイザーを演奏しながら、時間をかけて制作しました。

ビル周辺の朝や夕方の風景、晴れや曇りといった天候など、色々な状況や感覚に呼応しながら、直感的に音を選び取りました。夕方、ロビーの柱に街路樹の木漏れ陽が映る様子が特に美しく、そこでの制作はとても贅沢な時間でした。

高谷 濱君が手がける《WINDOWS》のサウンドには「言葉」というメディアも組み込まれています。ライブカメラが捉えた風景を、コンピュータが読み上げるのです。例えば「ここにはこんな風景があって、白い車が通った」といった具合に。もしAIがこうした映像を蓄積し、学習のために利用しているとしたら、音声による読み上げは、映像を文字情報として効率よく整理するための手段なのかもしれない。コンピュータと世界が対話しているのではないかと想像を巡らせてみるのも、この作品の楽しみ方のひとつだと思います。

《WINDOWS》に東京の空のライブカメラの映像が格子状に映し出されている。
Dumb Type(ダムタイプ)

ヴィジュアル・アート、建築、コンピュータプログラム、音楽、映像、ダンス、デザインなど多様な分野の複数のアーティストによって構成されるグループ。1984年に京都で結成以来、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続ける。美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない、あらゆる表現の形態を横断するその活動はプロジェクトごとに作品制作に参加するメンバーが変化するなど緩やかなコラボレーションによって、現代社会におけるさまざまな問題への言及をはらむ作品を制作し、多くの作品が世界中で上演されている。第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示(2022年)他。

dumbtype.com

高谷史郎

1963年生まれ。京都市立芸術大学在学中の1984年よりダムタイプに参加し、映像や照明、グラフィックや舞台装置などさまざまな表現を手がける。1999年より個人の制作活動を開始し、光学装置を用いた映像インスタレーションやパフォーマンスを国内外で発表。

古舘 健

1981年生まれ。コンピュータプログラミング、メカトロニクスなどを用いて、インスタレーションやライブパフォーマンスを行う。2002年よりサウンドアートプロジェクト「The SINE WAVE ORCHESTRA」を主宰。2014年よりダムタイプに参加。

濱 哲史

1985年生まれ。コンピュータプログラミングを駆使してサウンドや映像を制作。大友良英、坂本龍一、池田亮司、クリスチャン・ボルタンスキーら多くのアーティストの作品制作に音、映像、プログラミングで協働。2018年よりダムタイプに参加。

文:いまむられいこ
写真:井上佐由紀
構成:長谷川智祥